2020年6月22日「内覧制度は有名無実に」
東京地裁開札トピックス(20.6.15号)
内覧制度は有名無実に
2004年4月1日施行の改正民事執行法の中で買受人にとり興味深いのは競売不動産の内覧制度であった。周知のとおり競売不動産は内部を予め確認できないのが通常である。改正法では売却価格及び売却率の向上のため、債権者の申し出があった場合裁判所は執行官により入札締め切り前に競売不動産の内覧をさせなければならなくなった。ここで注意をすべきは申立ての権利を有するのは買受人ではなく債権者であるということだ。本来事前内覧を一番欲するのは買受人であると思われるが、改正法は債権者にその申立ての権利を債権者にのみ与えた。これは内覧実施によって売却価格が上がり、(場合によっては下がり)配当金額への影響という形で利害が大きいのは債権者であるという理屈である。もっとも内覧実施にあたっては円滑にこれが実施できるかどうかについて買受希望者よりは債権者の方が少なくとも情報を持っているであろうという観点もあろう。
ところで、この内覧実施はどの程度実際に行われるようになるのであろうか。まず、債権者に対抗できる、つまりは抵当権設定前の賃借人などは当該占有者の同意が必要であることからあまり実施は期待できない。それではそれ以外の占有物件の多くは内覧されるのだろうか。確かに改正法では事前内覧実施にあたっての立ち入り拒否については罰則を設けた。しかし例えば暴力団風の人間を占有者だと称しそこに居合わせたりするような行為が行われれば却って買受人の入札意欲を削ぐことになる。こういったことは明らかな執行妨害とも言えずその場で執行官が排除するのも困難であろう。円滑なる内覧が行われるには先の理由やプライバシー問題も絡み占有者の協力は実質的に不可欠と思われ、実施されることに改正当時から疑問があった。結局僅かに改正当初行われただけでほとんど行われない有名無実の制度となったのである。